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お役立ちコラム

2025.07.16

災害で事業停止?中小企業が今すぐ備えるべき事業継続方法

突然の災害で事業が停止してしまったら?中小企業でも今すぐ始められる事業継続対策を解説します。

災害時の事業継続、なぜ今、対策が必要なのか

近年、地震や台風、豪雨といった自然災害が全国各地で頻発しています。災害発生時、企業が直面するのは建物や設備の物理的な被害だけでなく、取引先との連絡途絶、従業員の出社困難、システム停止など、事業継続に直結する様々な問題です。

最新の調査によると、2024年の中小企業のBCP(事業継続計画)策定率はわずか16.5%に留まっています。一方、大企業では37.1%と、年々上昇しています。

「中小企業にはBCPは必要ない」と思っていませんか?実は、BCPは会社の規模に関わらず、災害への備えは事業を守るための重要な「保険」です。事業継続対策は難しく考える必要はありません。今日から始められる対策を考えていきましょう。

参考情報源: 帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2024年)」

3ステップで始める簡易版事業継続計画

BCPと聞くと複雑なイメージがありますが、実際には1枚のシートから始められます。最低限必要な対策を3つのステップで考えましょう。

ステップ1: 自社の重要業務と必要なリソースの洗い出し

事業継続の第一歩は「何を守るべきか」を明確にすることです。以下の項目を書き出しましょう:

  • 会社の売上を支える主要な業務・サービス
  • それらの業務に必要な設備・システム
  • 必要な人員と役割
  • 重要な取引先・協力会社

業務の重要度を「停止すると1日で影響が出る」「3日なら許容できる」「1週間は代替手段で対応可能」などと分類すると、限られたリソースを効果的に配分できます。

ステップ2: 災害シナリオと事業への影響の予測

具体的な災害シナリオを想定しましょう。まず、自社の所在地のハザードマップを確認してください。国土交通省のハザードマップポータルサイトで、災害リスク情報が確認できます。

災害シナリオを考える際のポイント

  • 自社拠点の立地条件(海抜、河川からの距離、地盤の状況)
  • 過去の災害履歴(地域で発生した地震、水害など)
  • インフラ停止の可能性(電気、水道、通信、交通)
  • 従業員の通勤経路の安全性

例えば「大雨による河川氾濫で1階が浸水し、電源喪失、サーバー停止、在庫被害が発生する」「震度6強の地震で建物に一部損壊、従業員の半数が出社困難になる」といった具体的なシナリオを想定しましょう。

業務ごとの「許容停止時間」を設定しておくと、災害時の優先順位付けに役立ちます。

ステップ3: 優先して復旧すべき業務と対策の決定

いざという時、限られたリソースで何から手をつけるべきか。その判断基準を事前に決めておくことが重要です。

優先業務の決定基準

  • 売上への直接的な影響度
  • 顧客への影響度(特に重要顧客)
  • 法的・契約上の義務(期限のある支払い、納品など)
  • 復旧に必要な時間と労力

実際の復旧手順では、「誰が」「何を」「いつまでに」行うかを明確にしておきましょう。責任者と代行者を決め、連絡網を整備し、必要な道具や代替手段をリストアップしておくことが大切です。

中小企業庁のBCP策定運用指針では、小規模企業向けの「入門コース」として簡易的なBCP様式を提供しています。

業種別の事業継続対策ポイント

業種によって効果的な対策は異なります。主な業種別のポイントを解説します。

製造業

製造業では、生産設備や在庫の保護が最大の課題です。

効果的な対策

  • 設備の耐震固定: 工作機械や保管棚の固定は低コストで効果の高い対策
  • 重要設備の分散配置: 生産設備を可能な限り分散させてリスクを軽減
  • 代替生産先の確保: 同業他社や取引先との協定で、緊急時の生産委託先を確保
  • 複数調達先の確保: 特に海外からの調達に依存している場合、代替調達先を開拓

熊本地震では、ある中小製造業が事前に契約していた同業他社に一時的に生産を委託することで、納期遅延を最小限に抑えることができました。

サービス業・小売業

サービス業や小売業では、店舗やオフィスの被災だけでなく、従業員の出勤困難や顧客の来店減少など、様々な課題に直面します。

効果的な対策

  • データのクラウド化: 顧客情報や予約情報など重要データをクラウドに保存
  • 代替営業場所の検討: 主要店舗が使用できない場合の臨時営業場所を事前に検討
  • 在庫の分散保管: 商品を複数の拠点に分散させてリスクを軽減
  • 非対面サービスの強化: オンライン予約、テイクアウト、デリバリーなど、店舗に依存しないサービス提供方法を整備

IT・情報通信業

IT・情報通信業では、データやシステムの保護が最重要課題です。

効果的な対策

  • バックアップの遠隔地保存: 重要データは地理的に離れた場所にバックアップ
  • 冗長化システムの構築: 主要システムが停止しても自動的に切り替わる冗長構成を検討
  • UPS(無停電電源装置)の設置: 突然の停電時にもシステムを安全に停止できるよう準備
  • リモートワーク環境の整備: オフィスが使用できなくても業務を継続できる環境を整備

小規模事業者向け最小限の対策

従業員が少ない小規模事業者向けの、最小限取り組むべき対策を紹介します。

まず取り組むべき対策

  • 連絡網の整備: 災害時に従業員や取引先と確実に連絡が取れる手段を複数確保
  • 重要データのバックアップ: 顧客情報、財務データなど、失うと致命的なデータは定期的にバックアップ
  • 現金の確保: 災害時は電子決済が使えない可能性もあるため、一定の現金を安全に保管
  • 簡易マニュアルの作成: A4用紙1枚程度の災害時対応フローを全員に配布

大阪府が提供している「超簡易版BCP『これだけは!』シート」は、A3用紙1枚に記入するだけで基本的なBCPが完成する便利なツールです。

災害対策で活用できる公的支援と認定制度

中小企業の事業継続対策を後押しするため、様々な支援制度が用意されています。

中小企業向け事業継続力強化計画認定制度

「事業継続力強化計画」とは、中小企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が認定する制度です。BCP策定のハードルを下げ、基本的な防災・減災対策から始められるよう設計されています。

認定を受けるメリット

  • 税制措置: 認定計画に基づく防災・減災設備に対する特別償却(16%)
  • 金融支援: 日本政策金融公庫による低利融資、信用保証枠の拡大
  • 補助金の優遇: 各種補助金の審査における加点措置
  • 認定ロゴマークの使用: 自社の防災・減災への取り組みをアピール可能

申請方法は非常にシンプルで、電子申請システムから必要事項を入力するだけです。申請書の分量も数ページ程度と、従来のBCPに比べて大幅に簡略化されています。

2024年現在、全国の認定件数は累計30,000件を超え、中小企業の間で徐々に普及が進んでいます。

防災・減災に関する税制優遇と補助金

災害対策のための設備投資には、様々な税制優遇措置や補助金が活用できます。

主な支援制度

  • 中小企業防災・減災投資促進税制: 事業継続力強化計画の認定を受けた企業の設備投資に対する特別償却
  • ものづくり補助金: 事業継続力強化計画の認定企業は審査で加点
  • 小規模事業者持続化補助金: 災害対応等を目的とした取組には追加の補助が受けられる場合あり
  • 各自治体独自の補助金: 地域によっては独自の防災設備導入補助金などがあります

自治体・商工会議所等の支援プログラム

全国の自治体や商工会議所では、地域の中小企業向けにBCP策定支援プログラムを提供しています。

主な支援プログラム

  • BCP策定セミナー: 基礎知識の習得や策定ノウハウを学べる集合研修
  • 個別相談会: 専門家による個別アドバイスが受けられる相談会
  • 策定支援ワークショップ: グループワーク形式でBCPを作成していく実践的な支援
  • 専門家派遣: 自社に専門家が訪問し、具体的なアドバイスを受けられる制度

専門家によるBCP策定支援の選び方

自社だけでBCP策定に取り組むのが難しい場合は、専門家の支援を受けることも検討しましょう。

自社で策定する場合と専門家に依頼する場合の比較

自社で策定する場合

  • メリット:コスト抑制、自社の実情に合った内容、社内の理解・浸透が進みやすい
  • デメリット:専門知識不足、日常業務との両立困難、客観的視点の不足

専門家に依頼する場合

  • メリット:専門的知見の活用、効率的な策定、客観的な視点での弱点発見
  • デメリット:コスト増加、丸投げによる形式的なBCPになるリスク、社内浸透の課題

中小企業にとって最も効果的なのは、「専門家のサポートを受けながら自社で策定する」というハイブリッドなアプローチです。

専門家選定のポイント

BCP策定支援の専門家を選ぶ際は、以下のポイントをチェックしましょう:

  • 業種への理解: 自社の業種や事業特性を理解している専門家か
  • 実績と経験: 類似規模・業種の企業支援実績があるか
  • 資格と専門性: BCP関連の資格(事業継続管理者など)を持っているか
  • 支援スタイル: 丸投げではなく、伴走型の支援を行ってくれるか
  • アフターフォロー: 策定後の訓練や見直しまでサポートしてくれるか

特に重要なのは「策定プロセスを通じて社内の理解を深められるか」という点です。優れた専門家は、完成したBCPを渡すだけでなく、策定プロセスを通じて社内の防災意識や事業継続の考え方を浸透させることを重視します。

まとめ

災害時の事業継続対策は、規模を問わずすべての企業にとって重要な経営課題です。完璧なBCPを一度に作り上げる必要はなく、まずは簡易版から始めて徐々にレベルアップしていくアプローチが効果的です。

本記事で紹介した3ステップの簡易版事業継続計画から始めて、業種や規模に応じた対策を検討し、必要に応じて公的支援制度や専門家の力を活用しながら、継続的に改善していくことが重要です。

今日から始められる対策を実行し、大切な事業を守る第一歩を踏み出しましょう。

参照・引用元一覧

  1. 帝国データバンク 「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2024年)」 – https://www.tdb.co.jp/report/economic/7llbf4-_jo/
  2. 国土交通省 ハザードマップポータルサイト – https://disaportal.gsi.go.jp/
  3. 中小企業庁 BCP策定運用指針・様式 – https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/bcpgl_download.html
  4. 大阪府 「超簡易版BCP『これだけは!』シート(自然災害対策版)」 – https://www.pref.osaka.lg.jp/o110050/keieishien/bcp/tyoukannibanbcp.html
  5. 中小企業庁 事業継続力強化計画 – https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html
  6. 中小企業庁 中小企業防災・減災投資促進税制 – https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html#zeisei

中小企業強靱化支援ポータルサイト – https://kyoujinnka.smrj.go.jp/